脂質

脂質32:抗酸化ビタミン

 脂肪酸の酸化をくい止めてくれるのが、抗酸化物です。

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 ビタミンEも抗酸化物の一つ。
 握手するお相手を求めている脂肪酸に、ビタミンEは水素を一つ差し出してくれます。

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 これで脂肪酸は安定。
 一方ビタミンEは、お相手のいない手ができて、「ビタミンEラジカル」になってしまいます。
 でも、ビタミンEの場合、この状態でも反応性が低いので、他の分子から強引に水素を奪い取ったりしません。
 お隣からむりやり水素を奪う連鎖にストップをかけることができます。

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 過酸化脂質がどんどん広がっているときでも...

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 ビタミンEがいてくれると、そこでストップ。

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 細胞膜の中には、山火事に備える防火帯のように、たくさんのビタミンEがあらかじめ埋め込まれています。

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 ただし、ビタミンEが誰かに差し出すことのできる水素は一つだけ。
 その一つを失ったビタミンEはもう働けなくなってしまいます。
 そこに、ビタミンCがやってきて、ビタミンEに水素を分けてくれると...

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 ビタミンEがまた抗酸化物として働ける状態に復活します。
 ビタミンEしかないと単発銃のようにしか機能しませんが、ビタミンCが十分あれば機関銃のように連射がきくわけです。

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 ちなみに、握手する相手がいない手があるビタミンは「酸化型」、ないビタミンは「還元型」と呼ばれています。
 抗酸化物として働ける状態にあるのは、還元型のビタミンです。

脂質31:過酸化脂質の問題

 ここで、素朴な疑問。
 そもそも、過酸化脂質がたくさんできると、なぜ困るのでしょうか?

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 活性酸素の場合、相手のいない手がありますから、非常に不安定で危険です。
 一方、過酸化脂質には、相手のいない手はありません。
 ですから、自分から他の分子にちょっかいを出す性質はなく、とりあえず安定した状態です。

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 ただし、過酸化脂質は金属イオンに触れると簡単に分解されてしまい、カルボニル化合物がつくられます。
 このカルボニル化合物の中には、「マロンジアルデヒド」のように、非常に不安定で、生物毒性のある物質も含まれているのです。

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 細胞膜には、たくさんのタンパク質が埋め込まれています。このタンパク質にマロンジアルデヒドが結合すると、タンパク質は満足に働けない状態になり、細胞の機能が低下してしまいます。
 また、マロンジアルデヒドには、DNAにダメージを与えて、発がんリスクを高める可能性も指摘されています。

 つまり、過酸化脂質には、ささいなきっかけで分解され、極めて危険な分子を放出する性質があることが問題なのです。
 細胞膜に過酸化脂質が広がっていくと、潜在的な危険分子をたくさん抱えこむことになってしまいます。

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 たとえ有害なカルボニル化合物を放出しないでいたとしても、過酸化脂質は十分に有害です。
 細胞膜に過酸化脂質がたくさん含まれていると、それだけで細胞膜の働きが低下してしまうからです。

 細胞膜は、とっても大切な働きをたくさん担当しているので、満足に働けなくなると大変困るのです。
 細胞膜のお仕事の一端をご紹介しておきましょう。

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 細胞膜は、細胞の中に入れたくないものをシャットアウトする壁になります。

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 細胞に必要な栄養素などは、細胞の中に入れてあげます。
 細胞膜に埋め込まれているタンパク質の一部は、栄養素をとりこむドアの役目を果たしています。

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 からだの中の細胞たちは、お互いにメッセージをやりとりして協調して働いています。
 メッセージは、ホルモン、神経伝達物質、サイトカインなどのかたちで送られます。ホルモンなどは、からだの中で使われる郵便のようなものなのです。
 こうした郵便を受け取る担当になっているのが、細胞膜に埋め込まれているタンパク質です。

 細胞膜がうまく機能しなくなると、有害な物質は細胞内に入りやすくなり、必要な栄養素は入りにくくなり、細胞同士のコミュニケーションはとりにくくなります。
 結果として、健康状態が低下しやすくなるのです。
 

脂質30:脂肪酸の酸化 その3

 前回(脂質29)のポイントを、別のイラストでおさらいしてみます。

13_2 平和に暮らしていた脂肪酸A。
 ある日突然、活性酸素がやってきます。

14  水素を一つ奪われてしまった脂肪酸Aは急に落ち着かなくなり、近くにいる酸素をつかみ取ります。

15  酸素をつかんでもまだ落ち着かない。ついお隣の脂肪酸Bに手を伸ばしてしまいます。

16_2  これで脂肪酸Aはとりあえず落ち着きますが、過酸化脂質になってしまいます。
 同時に、今度は脂肪酸Bにお相手のいない手ができてしまいました。

17  お相手をむりやりつかみとった脂肪酸Bは、最終的に過酸化脂質に。
 今度は、お隣にいた脂肪酸Cに相手を求める手ができてしまいます。

18  このようにして、過酸化脂質が次々に作られます。
 最初のきっかけになった活性酸素は一分子だけなのですが、その一分子によって、たくさんの過酸化脂質が作られてしまうのです。

19  からだの中には、脂肪酸がびっしり集まっている場所があります。
 たとえば、細胞の外側をおおっている細胞膜もその一つです。
20  細胞膜をつくっている脂肪酸の一つが、活性酸素の攻撃によって過酸化脂質に変えられたとします。

21  お隣にいる脂肪酸も過酸化脂質に変わり、そのお隣も、またそのお隣もと、過酸化脂質が拡大していきます。

22  何かが止めてくれないと、過酸化脂質が山火事のような勢いで広がってしまいます。

(細胞膜のイラストの出典:http://www.docstoc.com/docs/84295778/Membrane-structure_-I

脂質29:脂肪酸の酸化 その2

 脂肪酸を酸化させる元凶になるのが、活性酸素です。

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 水の分子です。
 水素と酸素はこのかたちでつながると安定します(忘れてしまった方は、脂質23をご覧ください >>

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 こちらは、「ヒドロキシラジカル」。もっとも反応性が高く、もっとも危険な活性酸素です。
 構造的には、水分子から水素が一つ外れただけ。それだけで、手をつなぐお相手を強引に奪いとる危険分子になってしまうのです。

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 活性酸素のターゲットになりやすいのが、不飽和脂肪酸です。
 炭素の二重結合の部分が、比較的水素を奪いとりやすい状態になっている2 からです。

 活性酸素が、今まさに水素を奪いとろうとしているところ。

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 水素を奪うと、水の分子になります。やんちゃだった活性酸素もすっかり落ち着きます。
 問題は、脂肪酸です。
 相手のいない手が一つできてしまい、不安定な「脂肪酸ラジカル」になってしまいます。

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 何事もなかったかのように立ち去っていく水の分子。
 残された脂肪酸ラジカルの運命は...

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 何としても握手するお相手をみつけて、安定したい脂肪酸ラジカル。
 新しいお相手として、近くにいる酸素分子を引き寄せます。

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 酸素分子が握手している様子を書いてみました。こんな感じに二重に結合しています。

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 脂肪酸ラジカルは、一本の手を奪いとるように握手。
 今度は、別の位置にお相手のいない手ができてしまいます。

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 握手の手をはぶいてスッキリさせるとこんな感じ。
 ちなみに、この状態の脂肪酸は「脂肪酸ペルオキシラジカル」と呼ばれ、とても不安定で活性が高くなっています。

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 脂肪酸ペルオキシラジカルは、どうしてもお相手がほしい、猛烈にほしい!
 そこで、お隣にいる不飽和脂肪酸に手を出してしまいます。

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 水素を一つ奪いとると、不安定な気持ちはひとまずおさまります。
 でも、酸素分子がたんこぶのようにつながってしまったため、「過酸化脂質」となってしまいます。
 この過酸化脂質がいわゆる酸化した有害なあぶらの分子なのです。

 一方、ここで水素を奪われた脂肪酸は脂肪酸ラジカルになります。

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 この脂肪酸ラジカルは、さっきと同じように酸素分子と反応します。
 最終的には自分は過酸化脂質になり、お隣には新たに脂肪酸ラジカルがつくられ...という無限ループになり、過酸化脂質がどんどん作れてしまうのです。    

脂質28:脂肪酸の酸化 その1

 脂肪酸は、いったん酸化すると栄養的な価値をすべて失います。
 有害なだけの困った分子になってしまうのです。

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 脂肪酸の中で、有害な酸化が起こる場所は限られています。
 酸化する可能性があるのは...
 炭素二重結合部だけ。
 それ以外の場所では、酸化の問題は起こりません。 

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 ですから、二重結合が一つもない脂肪酸(飽和脂肪酸ですね)は、酸化しません。
 酸化する可能性があるのは、二重結合のある脂肪酸(=不飽和脂肪酸)だけなのです。

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 そして、二重結合がたくさんある脂肪酸ほど、酸化しやすい傾向があります。


脂質27;脂肪酸の性質の違い

 脂肪酸は、かたちの違いによって、性質も変わってきます。

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 たとえば、胴体が短いか、長いかによっても性格が変わります。

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 二重結合があるか、ないかとか...

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 二重結合の数とか...

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 二重結合の位置までもが、脂肪酸の性質に影響を与えているのです。

 どの脂肪酸がどれだけ含まれているかによって、食品の性質も変わってきます。たとえば、次のような「なぜ」は、すべて脂肪酸によって説明することができます。

 なぜ、ラードは常温で個体なのに、コーン油は液体なのか?
 なぜ、オリーブ油は加熱調理に適しているのか?
 なぜ、亜麻仁油は生で摂る方がいいのか?
 なぜ、魚のあぶらは、血液をサラサラにして流れやすくするのか?

脂質26:単価と多価 不飽和脂肪酸

 飽和脂肪酸グループの中にサブグループがあったように、不飽和脂肪酸にもサブグループがあります。

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 飽和脂肪酸のサブグループは...
 短鎖脂肪酸
 中鎖脂肪酸
 長鎖脂肪酸
の3種類でした。

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 不飽和脂肪酸のサブグループには、単価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸があります。

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 不飽和脂肪酸のうち、炭素の二重結合が一つしかないものが、単価不飽和脂肪酸になります。一価不飽和脂肪酸と呼ばれることもあります。
 
 単価不飽和脂肪酸の中で、いちばんよく名前が知られているのが、オレイン酸です。

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 炭素の二重結合が二つ以上あると、多価不飽和脂肪酸になります。

脂質25:代表的な不飽和脂肪酸

 飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違いはただ一つ...

17  炭素の二重結合があるか、ないか
 これだけです。

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 代表的な不飽和脂肪酸をいくつかご紹介しましょう。
 オリーブ油などに豊富なオレイン酸。二重結合がある場所は、矢印で示してあります。

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 リノール酸には、二重結合が二つあります。
 二重結合の数が多いほど、イモムシのからだが丸まっていきます。

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 アマニ油などに豊富なアルファリノレン酸。
 二重結合の数は3つです。

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 EPAは、かなり丸っこいイモムシです。
 二重結合の数は5つ。

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 DHAは、こんな感じ。
 二重結合は6か所あります。

脂質24:不飽和脂肪酸の分子構造

 まず、飽和脂肪酸の分子構造からチェックしてみましょう。

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  ミニサイズの飽和脂肪酸。

9  水素のお相手は1人、酸素は2人、炭素は4人というルールにそって原子がつながっています。

11_3  一か所だけ、ちょっと変わったつながり方をしています。

10_2  お互いに2本の手でつながっています。複数の手をもつ原子なら、こういうつながり方もアリなのです。

12_2  では、以上のお話をふまえて、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違いを見てみましょう。
 飽和脂肪酸のまんなかあたりを切り取ってみると、こんな原子の並びになっています。

13  飽和脂肪酸の胴体は、どこをとってもこれと同じパターンでつくられています。炭素が一列に連なり、その両側に水素が整然と並ぶかたちです。

14  ここから、一部の水素がはずれることがあります。その結果、炭素には、お相手のいない手ができてしまいます。
 炭素は4人の相手と手をつながなければ安定しませんから、この状態では落ち着きません。
 どこかにいい人はいないのか??
 そこで、どうなるかというと...

15  なんだ、すぐ隣にいたじゃん!
 ということで、炭素同士が2本づつの手でつながりあって、無事に安定します。
 このかたちの結合が、「炭素二重結合」と呼ばれています。

16  炭素二重結合が一つでもある脂肪酸が、「不飽和脂肪酸」と呼ばれています。
 このイモムシは、オリーブ油などに多いオレイン酸。
 不飽和脂肪酸はこのように、二重結合の部分でからだが折れ曲がるかたちになります。

脂質23:不飽和脂肪酸のスタート

 今日から、不飽和脂肪酸シリーズです。

1  脂肪酸には大きく分けて、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2つのカテゴリーがあります。
 これまでは、飽和脂肪酸についてお話ししてきました。

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 ここまでに出てきたイモムシは全部、飽和脂肪酸です。

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 飽和脂肪酸は、次の3つのグループに分けることができます。
 短鎖脂肪酸
 中鎖脂肪酸 
 長鎖脂肪酸

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 そして、今日からしばらくは不飽和脂肪酸についてのお話です。

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 その前に、分子がつくられる法則についてちょっとだけお話させてください。
 水素、酸素、炭素などは原子です。原子が2つ以上集まってできているものが分子です。

 ほとんどの原子は、ほかの原子とつながりたがっています。
 水素は、一つの原子とつながると安定します。相手がいなかったときは、血眼になって必死に探し回っていたのに、一人のお相手が見つかっただけですっかり落ち着いて満足するのです。
 酸素は2つ、炭素は4つの原子とつながると安定します。
 なぜ、水素はお相手が一人がよくて、炭素は4人がいいのか?
 とりあえず、性格の違いと思ってください。

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シンプルな分子の例を一つ。
 水素が求めているお相手は一人、酸素は二人...

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 みんなが気持ちよく安定するかたちはこうなります。
 もちろん、H2O。水の分子ですね。
 明日は、この続きです。